涙ーーーNY

  涙ーーーNY 
     9・11同時多発テロ事件
    
      十河 智
 
南瓜を煮て崩しけり大事件
ホウセンカはうりだされし空の果
長き夜煙の形火の形
まさか摩天楼が陥ちてゆく天高し
レモン切るしづくが痛しニューヨーク
仏手柑や星条旗そしてアメリ
蘭の花百十階の夢の跡
いつせいにのどかなる田に彼岸花
とんぼ飛ぶそれさへ涙滲みけり
過ちは繰り返さぬと菊薫る
 
 
 
 
 NYには行ったことがない。しかし、地方出身の私は都会へのあこがれがことのほか強い。特に整然とした高層ビル群は、技術の集大成であり、現代文明のモニュメントとして、誇らしく見上げるものの一つである。一度行ってみたかったNY。鷹羽狩行に、「摩天楼より新緑がパセリほど」の句がある。俳句を始めた頃に知り、好きな句となった。その美しい摩天楼が崩壊し、NYに、そして全世界に衝撃が走った。
 この原稿依頼は、まさにその時にきた。俳句の題材としてはいかがなものかとは思った。が、私はこの大事件を横に置くことができなかった。ビルや地下街・電車を使う毎日、他人事でないこの事件が、掲載時にはどのように展開しているか予想もつかない。だが、只今の私の心の痛み、滲む涙の意味を表しておきたいと思ったのだ。