現代俳句文庫ー84 「朝吹英和句集」ふらんす堂

現代俳句文庫ー84 「朝吹英和句集」 ふらんす堂、を読む
        2018(10/08
        十河智
        
 朝吹英和さん、「俳句スクエア」に同人として投稿されているお仲間であるが、ご本人のことをあまり知らずに、俳句だけ読ませていただいていた。
 この句集をいただいて、ご年齢が私と同年であることや、俳句歴、師系など、を知り、また「俳句スクエア」以外での俳句を、読ませていただくことができた。
 俳句は、言葉が少なく、余白、現れていないところを読む文芸である。俳句一つを読んで、鑑賞すればよい、というのもあろうが、やはり、句座を共にし、人となりを知っている方が、より句意を掴んで、面白く鑑賞できる様に思う。
 また、俳句は作る人の背景を、より大きくその一行のなかに担って、現れている文芸でもある。作者の言葉の海の源が何処にあるかは、句に如実に現れる。読み手が同じ海を見たことがあるかどうかが、その句の鑑賞をきちんとできるかどうかにも、影響する。
 朝吹英和さんは、都会的、哲学的、音楽的、素養がおありで、家系的にフランス文学や楽器演奏などの教養豊かな環境にお育ちのようである。大きくなってから、興味を持った田舎育ちの私には、わかり得ないほどの深いものを身につけて、俳句を作られているような気がする。
特に音楽の楽器の触感や音色の感覚など、またフランスの歴史を踏まえた表現など、安易に鑑賞できる力が私にはないように思われた。逆に朝吹英和さんの句を、その世界への気付きの原点として、この句集が私の幅を広げてくれる喜びもあるような気もしている。
 わかる範囲で、感銘を受けた句、好きな句を挙げる。

感銘句
散骨の野に一本の捕虫網
サルトルの蒼き横顔熱帯魚
果てしなき死者の点呼や虎落笛

好きな句
擦り切れしマタイ伝から秋の蝉
モーツァルト鳴り止みしまま毛糸編む
春陰の奈落に軋むチューバかな
噴水の頂にこそ未来形
尺八の一音成仏枇杷熟るる

 余談ではあるが、朝吹英和さんの叔母様は、朝吹登水子さんだという。この方の翻訳によるフランス文学をたくさん読んだ。サルトルボーボワールの来日の時、新しいパートナーという関係性に興奮した。そのときの通訳の方だったという。テレビのインタビューの場面が、微かに浮かぶ。ボーボワールの「第二の性」は、私のバイブルである。懐かしくて、今に繋がる時代である。何か朝吹英和さんにも親しいものを感じている。