キーホルダーから鍵が落ちた。見つかった。

キーホルダーから鍵が落ちた。見つかった。
        2019/02/23
        十河智

 私は捜し物名人と言われ、自分でもそう思っている。つい最近もこんなことがあった。

 主人の方が体力的には元気。買い物をして来てくれる。
 そんなある日、出先から電話が掛かってくる。大声で、車のキーホルダーについている家の鍵を落としたという。最近耳が聞こえにくいという老化があるらしく、声が大きく、怒鳴っていないというのだが、怒鳴り声に聞こえる。
 こうなると、主人が帰ってきたら、捜しに行くのに連れて行かれるのが常なので、用意をして外に出て待つ。
 車に乗って、朝から出かけた場所を、3ヶ所回ることにした。お昼をした山羊カフェまで私が運転したのだが、家は主人の持っている別の鍵でかけた。カフェのテーブルの上にあったキーホルダーのことが記憶にある。捜しに行って、聞いてもみたが、駐車場の止めた場所にも、店内にも、なかった。
 山羊カフェから、一度家に戻り、主人は私を下ろした後、スーパーから別宅へ。別宅で玄関を開けるとき、もうひとつの自宅の鍵がないのに気づいたという。
 その辺は十分に探したというので、もうひとつ前に寄ったスーパーに先に行くことにした。
 スーパーでも駐車した場所を探すことにしたが、すでに別の車が駐車していた。近くに止めて、その場所の車の下を除いたが、ドアのところに、ごみが袋に入って捨ててあるだけ、見つからない。念のために、売場に行って聞いてみる。届けはないと言われた。
 かなり昔、寝屋川では、タクシーに落とした財布に鍵が入っていて、拾った人が強盗事件を起こしたことがあった。だから家の近くで落としたときは、一度全部鍵を変えてもらったことがある。
 今回は、キーホルダーから外れた鍵一個だけ、名前も書いていないし、そう心配はないと思うが、と言いつつ諦めかけていた。
 駐車場に戻ると、そこにあった車はすでに出ていった後、ごみの袋が残っていた。ふと諦めきれずに、ごみの袋を退けてみた。
 駐車場の薄暗がりの中で、金属が鈍く光った。よく見ると、鍵。うちの鍵。
 車に乗りかけていた主人に、「あった!」というと、「何処に?」と言って、やって来て確認。
 やれやれ。家に帰ると、主人がキーホルダーのキーを止めるところをセロテープでぐるぐる巻きにしている。見せに来て、これで落とすことはないと満足げに言う。
 このキーホルダーは、甥の新婚旅行のイタリア土産、おしゃれな彼が叔父ちゃんにと、選んでくれたうちの数少ないブランド品、アルマーニ。十何年も使えば、ネジも緩むというもの。これからも、セロテープで巻いて、毎日持ち歩く。

三寒四温突然電話きて怒鳴る
家の鍵春の闇にぞ打ち落とす
名人が捜しに行かむ春の暮
魚氷に上る床にきらりと鍵ひとつ
春炬燵セロテープ巻くアルマーニ