「俳句のの五十年」高浜虚子 中公文庫(解説 岸本尚毅)

「俳句のの五十年」高浜虚子
 中公文庫(解説 岸本尚毅)
        2018/10/08
        十河智

 面白かった。読みやすかった。昔出された本を文庫化したものだが、外出の時、持ち歩き、読み繋ぐのに、ちょうどよい、中味の本であった。話し言葉だが、語り口が穏やかで、丁寧、一篇一篇が、繋がっているところもあって、次の話を読んでみたくなる、というより、早くお話してと、おじいさんにでもせがむような気分であろうか。
 本好き、俳句詠みなら誰でもよく知っている作家や俳人、エピソードのリアルな場面が、回想として、時の進む順に、虚子の傍ら、目前で、繰り広げられる。虚子は自分の人生を語るのであるが、淡々と、歴史としての「俳句の五十年」を語っている。口述筆記されるという成り立ちの効果なのか、人生を過ごし切ったという虚子自身の達観の境地なのか、この版に新たに付けられた、岸本尚毅さんの解説にある「本書を成功者の回顧として読むと面白くない。」というのは、杞憂の様に思う。私には、少なくとも、あり得なかった。きっちり、それに続けての記述通り、「そうではなく、回想として語られる若き日の虚子は先が見えていなかったのだ。その時々の状況に流されながら、虚子は多くを切り捨て、何かを貫いた。その足取りは近代俳句の歴史と重なる。」と、読むことができた。