津田このみさんの句集「木星酒場」を読みました。

津田このみさんの句集「木星酒場」を読みました。
        2018/09/03
        十河智

 津田このみさんの句集「木星酒場」を贈って頂いた。
少し前からフェイスブック上で、面白いと評判であったが、存じ上げない方なので、注文しようかな、と思っていた矢先、「里」の購読会員であるよしみからか、贈っていただけた。こうして、読ませていただける句の幅が広がるのは、とても嬉しいことだ。俳句を通してのみ人を知る、そういう体験もまた冒険的で、スリルがある。帯の坪内稔典さんのによる代表句と推薦文が、大いなる興味を抱かせる。
 
『 裸たのし世界よ吾に触れてみよ

津田このみの俳句は
体が世界を感受している。
なんだかまぶしく、なんだかおかしい。
その俳句の私は熱烈なファンだ。
      坪内稔典

 稔典さんの選による10句も、私のふだん接する句会ではあったこともない句柄であるが、まさに、「裸たのし」そうで、句意がズンズン私の身の内に浸透してくる。

 特に

 たんぽぽをついでに君をめちゃくちゃに
 大火事よ松田聖子のポスターよ
 どうせ道ローマに通ずおでん酒

 この三句が気に入った。
 たんぽぽの句の茶目っ気、聖子のポスターの、私の時代ならば、さしづめ、ボンカレー松山容子であるかのように、置き忘れられた印象、おでん酒にみられる諦観、若くて、私からすると新鮮だ。

 年代的には、この方も、娘世代、句歴は、20数年、あとがきによると、志を持ちながらも、結婚した女性なら普通に辿る人生の変転とご病気もあったらしい。その辺のところは、理解できそうだ。大体の人物像を得て、再び読んだ。また読んだ。
 飾り気の全くない透明感が好きだ。直接的で、ぼんぼん投げ掛けられる言葉の、コントロールの良さが、気に入りだ。裸たのし、裸を見ても、清々しい。

好きな句を挙げる

1
人類に鼻あるかぎり梅白し
たんぽぽをついでに君をめちゃくちゃに
青色の絵具を買いに揚雲雀
みどりさす猫に夫に私にも
人殺ししそうな猫が片陰に
もう止めてくれないか向日葵も青空も

2
蛍しかない町だよと運転手
アイスコーヒーオジサンはオジサンがきらい
天高く林家ペーとパー子かな
水鳥に水わたくしにハンドクリーム
永六輔的セーターのみどり色
火事跡よ松田聖子のポスターよ

3
後朝のレタスを水に放ちたる
裸たのし世界よ吾に触れてみよ
夜のプール体に水が侵入す
新涼の腕美しカルテット
落ちそうな地球落ちそうな月見る

4
落葉踏むこの森すこしあたたまる
濃紫陽花泣いてゆるめる体かな
マジメと言われマジメに怒る落花生

5
もやもやの下界のあれを花と言う
一月の川流るるは痛そうな
粉雪やたたむ翼のありもせで

6
どうせ道ローマに通ずおでん酒
その辺の猫を鈴子と呼ぶ日永
シャチハタを押してもらってちるさくら
国境として一本の向日葵を
空蝉をためつすがめつのちつぶす

7
東京が五分遅れる雪の夜
オリオンのピアスをひとつ下さいな