つれづれの俳句 Ⅱ

つれづれの俳句 Ⅱ
     1996年頃
        十河 智

一 友の父母
      ~御世話を掛けた友人のお母様のこと

霧走り二十歳の頃の出町かな
硝子戸に「はつたい粉あり」そを開けて
友の父母居ます茶の間に夕端居
うどんだし講ぜられしや夏の服
文庫本手にし給ひて居待月
握り飯差し出されて月夜かな

夏の夜泣く子を宥め母のごと
濡れ色に声若かりし去年の秋
松茸に執着有らすと聞きにけり
母童意表いろいろ蚯蚓鳴く

初嵐葬儀に参る真如堂

君なれば負けじと思ふ野分中
浮き沈む年月ありぬ野分荒れ
薫陶の母を述べたり秋の雨
このやうに限りを迎へ虫の声

二 花の昼
    ~交野、妙見
    ~アメリカへ旅立ちの前に

新主婦を誘ひ出しけり花の昼
若楓初々しきに気力満ち
花吹雪く白蝶の意思掠めつつ
潤む日や花には雲か青空か
近く遠く散策の人遅桜
残る花もうすぐ越すと聞きし故
新主婦も旬の筍料理すと
連翹やその勢いを刈り取られ
低き塀越えさすしだれ桜かな
辛夷一花風雅の家と思ひけり
声あげて可憐を愛でる木瓜の花
目に止まるあるかなきかの雪柳
花影の美しき一歩かな
アメリカへエジソンの竹妙見桜
胡蝶舞ふ大海原を志し


三 ふたば豆餅
    ~出町、下鴨、出町柳駅

兜飾る新築の家男の子
隅々にもてなしの花粽かな
柏餅ふたば豆餅並びけり
夏菊やおうりんの音澄み切りて
こどもの日はっぴの子等の河川敷
花菖蒲上着で決めて撮る写真
新緑や昨日の事は忘れしか
夏蓬白髪初めて染めたりと
新樹かな御手洗川の漲りて
夏の宵刻限迫るシンデレラ
 
四 梅見
     ~長岡京
(二月)
探梅や電車路線図前に置き
大王(おおきみ)や郎女(いらつめ)ゐます探梅行
(三月)
休業日街端正に冴え返る
梅の宮歩き通して太き松
梅の香や楷書添へたる歌碑ありぬ
百千鳥一宮隅の隅にまで
長岡京ガラシヤ通り倉庚(ひばり)鳴く
朧中柵の塗り替へ途中まで
工場は静かに稼働春の道
麗らかや孔雀は羽を広げぬか
春寒し子守のぢぢの固まりて
春の鴨足元にをり古塁跡