つれづれの俳句 Ⅰ

つれづれの俳句 Ⅰ
      1995年頃
         十河 智
一 夏薊
   
夏薊そを活く清雅に惹かれけり
馥郁と乳の香のありき夏の部屋
まず一つ白髪の話缶ジュース
秋口に会ひたき人に会ふ刹那
囲碁すると秋めく頃の思ひつき
秋天にその名放ちて鳴門去る

二 鳴門・佐那河内・徳島

白き舟入江に浮かび布袋草
陽を忘る薄紫に布袋草
白鷺や羽畳みつつしとやかに
潮風もさつぱりとして残暑かな
方々を歩き昔の青みどろ
汗流る我が住みし日の遙かなり
青き田や切岸深き鄙の道
川沿ひに姉送る人絽の喪服
出水には流す小橋や渡りきり
青鷺の石に同化す微動だに
笑み湛ふ山河遍く秋日濃し
椎落葉踏み手を上げてバス止めぬ
阿波踊片付けの日の街疲弊
花棕櫚や暮れ泥む駅阿波訛

三 同窓会

三十年を語り語らず走馬燈
初恋の幻影常磐木落葉して
ただ誇示のざわめきばかり残暑かな

            以上 「秋めく頃」


水亭やかく親しみて永きかな
珍しき花いろいろと暑きかな
羅(うすもの)の若き子そつけなく行きぬ
青き芥子ただ一輪に癒やしあり
伸びをして光と風の半夏生

五 美容院

てきぱきと動く両の手綾羅かな
肩掛けに目尻の汗を拭ひ難し
夏痩せもなく写るかな大鏡
洗ひ髪操り鏡像へと語る
髪染むる炎天の下映ゆる黒