黄土眠兎さんの句集「御意」を読みました。

黄土眠兎さんの句集「御意」を読みました。
         2018/02/02
         十河智

「鷹」「里」でご活躍の俳人でいらっしゃる黄土眠兎さんの句集「御意」。限定五百部中493番、お正月家にいなかったので、注文が少々遅れました。読めなくなるところでした。格調高い装丁、活版印刷の温かみある味わい。この本を手にすること自体に懐かしさを感じる昭和世代なのでした。

 この本が出ると初めて聞いたとき、「御意」が、句集のタイトルとして面白い付け方と思っていたので、タイトルが取られた句を探しました。

マリリス御意とメールを返しおく

 案に相違して、わりと今風な句であったので、好みの通う安心感がありました。

 作者としては句と距離を保ち姿を見せない、句を一人歩かせる感じが素敵に思いました。句の周りにほんのり灯が点るように、小さな物語が見えたりする。新発見の現代があり、昔かたぎの風詠あり、ドキッとする言い切りの発想あり、まねのできない取り合わせ、俳諧味を見せる句もある。作者が確かに目にし、触れた物や事柄、それが敢えて、境界を設けず、並べて句となり、冷静に一句として立ち上げられていく。このどんなことでも句にしていく対象の多様さが、この作家の句の特徴かもしれない。
 帯に小川軽州さんが書かれた一言、「この句集の豊穣は私にとってうれしい不意打ちだった。」このことばに感じ入っている私である。
 いつまでも俳句未熟者の私にとっては、到達できないところを示してくれるお手本的句集のような気がしている。

 順に好きな句を挙げさせていただきます。捨てがたく少したくさんになったかもしれません。

香辛料多き俎始かな
化身なるべし熊野路の初烏
まだ熱き灰の上にも雪降れり
冬帽を被り棺の底なりき
トロ箱の氷攻めなる四温かな
透く紙に根雪のことば木のことば
紙飛行機雛のまへを折り返す
魚は氷に上りて貯金増えにけり
英訳の村上春樹花の昼
かごめかごめ櫻吹雪が人さらふ
大縄の大波小波百千鳥
Amazon楽天も好き種物屋
菜の花が八百屋に咲いてしまひけり
丸洗ひされ猫の子は家猫に
独逸語のをんな梅干す島泊
うたかたのごとく四葩の散りにけり
髪洗ふ今日は根つから楽天
オリンピック中継鰻屋にゐるよ
やすやすとまんぷく食堂に西日
ゆふぐれはもの刻む音夏深し
赤まんま挿したき虚子の鞄かな
一人歌ふ國歌はさびし稲光
大根が首だしてくる月夜かな
ままごとに戀人の役藤袴
菊人形肩より枯れてゆきにけり
初時雨青年基地にもどりけり
雪雲を仰ぎ田の屑まとめしか
冬ざるる子を産み終へしマリアの絵
あつぱれや古道具屋の熊の皮
子守歌かき消し消防車が行くよ