土谷竜一さんのご本、「僕にできること」

土谷竜一さんのご本、「僕にできること
        2018/01/31
        十河智

土谷竜一さんのご本、「僕にできること」一気に読み切りました。それほど楽しくて、活力が溢れ、勢いづく文体でした。弟と猫を取り合って八つ裂きにしかけたこと、工事現場で戦争ごっこやお姫様ごっこ。お祖父ちゃんちの暗い部屋、トイレまでの長いギシギシ音のなる廊下、ありました。読みながら、りゅうちゃんの遊びや冒険を自分の思い出に重ねて、久し振りに、興奮していました。孫たちが少々やんちゃでも兄弟げんかしても、大丈夫。きちんとおとなになってくれる。何事にもめげない前向きな明るさ、とても大切で、この子供時代に育まれると読んでいてそう思いました。
もうひとつ、ご病気を抱えられた土谷竜一さんの「僕にできること」と題された深い思い、私にも伝わってきます。
 私は、太っていて、逆上がりができず、クラスで一番走りが遅い子だった。今思えば軽いいじめの対象だったのかもしれないが、友達も多かったので、気にせず大人になれた。できないこともあるが、できることに気がついた。それが立場を逆にするかもしれないことにも気がついた。そんな子供社会の善悪を過不足なく描いて見せてくれる。忘れていた微かな痛みと温もりがよみがえる。
 また、私には、「お姉ちゃん」と呼ぶくらいの年齢差の叔母がいた。肢体不自由な障害を持っていた。祖母の育て方を幼い心で垣間見ていた。使えるところは使え、友達に助けてもらえ、諦めることはない、が基本方針だったようだ。足で包丁を操り料理し、編み機の枷を口で飛ばす、そんな姿を思い出す。一生のうち何度も生活改善のために手術した。結婚して子供も育てた。電動式スクーターでどこへでも行った。80歳まで生きた。頼もしかった叔母のことを、久し振りに思い出させてもらえた。
 竜一さんのお子さまがたも、ありのまま、生きる姿を、頼もしく思っていらっしゃるに違いない。

笑いながら、考えさせてくれる本であった。

弟と八つ裂き寸前冬の猫
逆上がり一人出来ぬ子冬夕焼
出来ること成し古希過ぎて梅の花
春の風スクーター駆り脱不自由
りゅうちゃんの冒険炬燵で一気読み