訃報回覧

訃報回覧
       2018/01/25
       十河智

 この冬何回めかの酷寒の夜、帰宅すると、訃報回覧があった。
 少し離れたご近所の独り暮らしの長い男の方、娘さん二人は嫁ぎ、奥さまを亡くされてもう三十年くらい経つ。この住宅街に来た頃は、同郷と知り、いろいろ教えていただいた。上の娘さんは長くそのお宅でピアノ教室を開いておられ、うちの娘も高校時代まで通った。みんないなくなって、お一人で暮らしていらっしゃる頃、詩吟をやる朗々とした声が聞こえた。地域の市民センターでお仲間がいて、発表会もやっておられた。80歳台は、私の薬局の患者さん、いつもお届けをしていた。持病があったが、基本お元気な方だった。
 私も現役を退き、この方も家に引き籠りがちとなり、普段はお付き合いがなくなっていた。娘さん達も私と同年代である。訃報によると、百歳になられていた。最後は病院か施設だったのか、お葬式も既に家族ですまされていて、住宅街の、近辺に少しも慌ただしい波風がたたない。この頃の普通になった人の送り方が、淋しい。
 亡き方への哀悼の気持ちを、こうして交情の日々を想うことで表しておきたい。
 

百歳の訃報回覧寒厳し
小正月父を見送る娘達
寒の月亡き人詩吟よくしたる
山茶花やピアノ教室今無住
梅咲くや親交の日々めくるめく