安田中彦さんの句集「人類」を読みました。

 安田中彦さんの句集「人類」を読みました。
        2017/11/03
        十河智


「香天」同人、安田中彦さんの句集「人類」を読ませていただいた。「香天」の読者となったばかりで、この方の句とは、ほぼ始めての出会いであった。印象は、大変冷静、熱をあまり感じない句集であった。熱はないが、銀河系に光をちりばめる星の如く、句のなかには、真理や事実が淡々と述べられている様に感じた。月や明星のように、私にも感情移入が起き、わかる句もあるが、あまりに遠すぎて、眺めるだけに終った句もあった。ここは正直に感想を述べておこうと思う。あとがきに句集タイトルを「人類」とした理由を「ばく然とした印象」を避けるためと書かれている。私の受けた印象は、案外作者の意に沿うものなのかもしれないと、安堵している。ふと思い出して、句意を理解できるときがあるかもしれない。

気になる25句

ピザよりも早く死が来る畳かな
春郊や児なき夫婦の遊びをり
問はるれば苺と答ふ蛇苺
既視感(デジャブ)とは青葦密を目ざすこと
虎が雨サクソフォンの音濁りけり
八月や冷蔵庫から死魚と死語
ジャム瓶のなかに凍土と千の夜
どこからが泪どこまで雪うさぎ
鳥帰る攝津幸彦全句集
不帰の子の隠れゐさうな夏木立
文旦やたましひならば不出来なり
みどり児の遺伝子いとし藪柑子
ゆすりたかりさぎてろその他冴返る
ばう然と肉体のありはなすすき
人体に骨の大小雪おろし
夢はじめ壺中の水の豊かなり
人体もたましひもたぶん風花
地獄坂ここが起点や多喜二の忌
リラの青死はうすうすとおとづれる
箱庭に原子炉ひとつふたつ百
秋天や骨あげの骨評し合ひ
一月の真青の空に凧荒ぶ
なめくぢらとうににんげんゆきすぎぬ
師の家の老いの家なる気配かな
衛星の軌道は神の仮分数