ホライゾンタル北海道

 ホライゾンタル北海道
          北海道旅行 ( 1995/8/1~4 )
        十河 智

 一

 御巣鷹や搭乗客なる夏の果て
 夏飛行氷白世界緊迫す
 天の裏また雲の峰突き進む
 雲表や紀伊鳥瞰の夏の国
 着陸の減速感に北涼
 初めてのカーナビゲーション驟雨中

 二 

 クマゲラや樺の白さを突きをり
 阿寒湖や夏暮れ泥む船上に
 夏草にエゾシカ四・五頭大阿寒
 サビタ咲く古き毬藻の歌流れ
 憧憬やモダンに北の夏暮れて
 放牧の牛ゆつたりと花茨
 釧路港見えるホテルの夏の朝
 紅き蟹釧路市場の活気かな

 三

 湿原に道一筋や夏の空
 双眼鏡広き夏野に鳥一羽
 刻々と摩周湖消えぬ夏霧に
 旅人に霧の摩周湖アイスクリーム
 ごった返す土産の店や氷雨降る
 夏の雲スピード上げるばかりなり
 辿るかに知床峠夏の霧
 雪渓や雲かかりたる羅臼岳
 宇登呂着お花畑は霧の中
 遙遥とオホーツク海観光船
 海鵜ゐて瀑布落下す地の涯ぞ
 断崖に白き夏涛の絶え間なく
 知床や色無き風にウミネコ
 
 四

 夏深しホライゾンタル北海道
 五胡巡りヒグマ警告する赤字
 夏湖にて一年実生のナナカマド
 小清水の原生花園夏の駅
 ひるがほや幽かな色のオホーツク
 ハマナスや砂浜に馬寝まりをり
 網走へ蕗の路来し日照雨止む
 監獄も日当たる観光姫女苑
 夏の灯はカーブに沿ひぬ眠る宿
 鎮まらぬ流通幹線夜の秋
 せせらぎを聞き夏の夜を沈みゐて
 夏暁層雲峡に幕上がり

 五

 黒岳へ透綾(すさや)の袖に手を通し
 シマリスやロープウエイ駅夏炉焚く
 くるくるとチングルマはや花の後
 峡谷にウコンウツギの黄は深し
 雲上の尾根に陽が差し明日は秋
 登山口さらに分け入る計画書
 神々の雲に戯れ青嶺かな
 札幌の歩行者天国日の盛り
 涼しさを離るる告知旅終る