風青し

 (二〇一六年五月一五日・一六日
    高野温泉福智院宿泊)
 
  風青し
         十河 智
 一
    高野山道程遠く来て卯月
 夏の山曾ては女人結界地
 二
 青嶺高く重なるところ高野バス
 若葉風杉と楓と高野槙
 御堂より出で夏の天めざす龍
 古池や蛙の声に誘はれて
 高野槙緑陰にある赤き橋
 木下闇少しのフオトンフイトンチツド
 黒蟻のたうたう足にまで登る
 蟻の列参拝の列途切れなし
 薄暑光内の闇には痛き程
 三
 万緑をバスで巡るや高野山
 葉隠れに警察署あり青嵐
 夏衣僧はなにやら唱へつつ
 風青し扁額門柱寺院の名
 名刹の茂り中なり石の門
 四
 寺に咲くしやくなげ白く儚げに
 夕涼や井伊家の紋を掲げたる
 汗拭ふ園田氏御一行様とあり
 墨蹟の馨し梅雨の晴間詠み
 夏の灯や蝋燭揺らぐLED
 山の蟻涸山水を躊躇はず
 遊仙庭苔生す石は青葉山
 夏の庭銘に回顧の人見たり
  夏料理作務衣の僧の細やかに
 庫裡よりの音喧し苔の花
 微酔や寺の回廊にて涼み
 夏の宵突如衝撃音起こり
 宿浴衣憲法談義眠りつつ
 五
 朝涼に勤行和して響きけり
 夏暁や鈴(りん)の余韻の突き進む
 紙魚這ふや写経の高野和紙重ね
 宿坊に朝の珈琲夏座敷
 緑風や背高き人の額瑕
 日焼け止め万全にしていざ参る
 六
 杉落葉高野六十那智八十
 杖頼る者を励まし金鳳花
 草刈のモーター音や奥の院
 山滴る高野六木幹と葉で
 寺男話長きや杉落葉
 夏初め樹透(こすき)に残るすみれかな
 七
 薫風や高野温泉福智院
 五月躑躅手入れの手間を見入りけり
 眼に青葉集合写真撮りにけり
 クーラーもウオシユレツトも山の上
 夏天広し埋設電線変圧器
 去り難しさへづりとよむ避暑地かな
 カツ丼で暑き下界へ備へむか
 棕櫚の花ケーブル離合地点なり
 園田氏のスマホに残る夏の旅