老境

 老境
    十河 智
二〇一六年六月四日・五日
京都大学薬学部昭和四四年卒
同窓会 くに荘にて

  一 準備
 夏来る回を重ねし準備会
京都中尋ねて歩きはや夏に
汗拭ひ取材する友映し込み
あぢさゐの咲く三室戸寺去年のこと
画伯の絵付けて暦は五月から

二 受付
 入梅(ついり)の日荒神橋を渡りきり
受付に会議机を夏の夕
くに荘へ卯の花腐し抜けて来て
梅雨の闇打ち消す「やあ」や「久しぶり」
夏灯すロビーで名札見て笑まふ

 三 宴
 白尽くすセンターは百合香を放ち
黙祷す黄泉の友立つ五月闇
夏の夜の老境語る二分ずつ
鱧尽くし寿司酢の物に田麩まで
二次会へロビーにトルコキキヤウかな
ビール残る酒量の落ちし宴かな

 四 余
 熱海より運ぶ温泉缶サイダー
半世紀時は一様花氷
梅雨湿り十一枚目の千円札
片陰や下宿そこだけ元のまま
  宝塚見し後買ひぬ夏の服

 五 直前
 宇治ミルク金時同窓会直前
冷麺の味良きことを良しとして
並ぶ店馴染みある店夏柳
梅雨模様岡崎通り五番バス
近きゆゑ神宮神苑花菖蒲

六 琵琶湖
 夏帽子保津川と宇治行きはバス
さやうならまたさやうなら梅雨の朝
梅雨寒の朝駅名は東山
なにかしら緑垢抜け山科区
梅雨曇港に鐘が鳴り続く
夏霧や銅鑼打ち遅れ出航す
梅雨晴間琵琶湖周航歌の流れ
船遊び油断大敵などクイズ
近江富士比良比叡見て夏館
夏の濤降り立つ一歩揺れにけり
茂るままありイングリッシュガーデンは
カミツレの花よく匂ふハーブ園
あぢさゐのむらさきの濃し雨止みぬ
足元にビオラその先柏葉あぢさゐ
靄掛かる薔薇の名評定限(きり)も無し
薔薇咲ける園やここにはバラ王子
既に散り既に朽ちたり白き薔薇
夏料理びわ湖大津館より琵琶湖
さざ波と遊ぶ椋鳥夏の湖
菱浮くや隊組むヨット帆を上げて
三井寺や万緑に望遠レンズ向け
浜大津ここで散会鵜がひとつ