竹の花

  竹の花     
      十河 智

浜名湖や風は色なき夕まぐれ
秋寒し湖面孤独を切り遊ぶ
初紅葉今宵の宿に着きにけり
登高す富士見はならぬ雨衣
水澄むや風力に拠る一基かな
爽やかに一瀑を受け鯉泳ぐ
勤行の古刹にありて竹の花
遠州公置きし石庭寒露かな
僧幾多瞑想ありし座石冷ゆ
重石積む味噌の大樽爽気さへ


 バスで行く小旅行、一泊程度のものは手軽でとても楽しい。普段でも、観光バスがそこを通ったりすると、前面に掲げる団体名や、地名を賦したバス会社そのものにさえ、ローカルなほのぼのとしたものを感じることがある。PTAや地域・職域の、そんな旅行に私が参加する機会は多い。普段、仕事をしていてまた主婦であり、吟行や句会にはそう頻繁には参加できないでいる。本当は、同好の方々とともに鍛錬しつつ俳句三昧に耽りたい。しかし世間のしがらみから、他の予定を優先させる暮らしを続けている。俳句を始めてからは、旅に出てもカメラを持たない。歩きつつ、佇みつつ、目に触れ、耳に届き、そして皮膚に触るものが、五七五の音を伴って、私に啓示される。 私が旅をするということ、それは自ずから吟行である。