島倉千代子

 少し前になるが、島倉千代子の訃報に接した。
 私の思春期のあこがれのお姉さんスターであった。
 張りがあり、透き通る、高い声で、テレビがまだうちに来るか来ないかの時代であったが、たぶんラジオでよく聞いたのだろう。歌声が耳に残っている。 また、「この世の花」が映画になり、島倉千代子が主演した、その告知の大看板の絵柄は、今も鮮明に思い出せる。育ったのが地方の町の中心部であったので、商店街の三方に伸びる入り口のところに、商店の屋根を隠して、映画の大看板が掛かっていた。ヒットしたのか、かなり長い間、島倉千代子の横顔が、その店の看板のそのまた上に微笑んでいた。学校からの帰りに毎日見上げては、うっとりとお姉さんの姿に見とれていた。同年代の少女歌手松島トモ子や安田彰子・孝子、小鳩くるみに抱く感情とは、少し違った。映画も見たと思うが、中味は、全く思い出せない。初めて、スターのファンになったといえる。
 それから、島倉千代子にも、私にも、人生の曲折があり、関心もなく忘れていた。もちろん、スキャンダルとして話題になったことなど見聞きしたが、かってそれほど好きだったことさえ忘れていた。
 最近、私も老後に入り、また、テレビに映る老いた島倉千代子も年齢にあった新曲を歌うようになっていた。声は、掠れ、弱々しくなっていたが、昔の歌ばかり無理をして歌う歌手よりは好感が持てた。変わらず、清純さを感じていた。訃報は、ごく自然に、風の便りのように聞き、受け入れることができた。
 
      ひといろのこの世の花の枯れにけり
      若葉風映画に主演して歌ふ
      大枯野老いを隠さず老いの歌