損と得の始まり

 孫は6歳と3歳の兄と弟である。男の子同士なので、よく同じおもちゃの取り合いになる。ほかにもいっぱい転がっているのに、一人が持つともう一方がほしがる。片方が重ねた積み木をひっくり返しにいく。兄の性根込めたレゴの作品から、かまわず弟は部品を抜き取る。兄は言いくるめて得ようとするが、幼い弟は理不尽に突進する。たいていは、弟の方が先に泣き出す、そして兄が叱られてまた泣く。
 ある時、二人に一冊ずつ本を買ってやることにして本屋に連れて行った。祖母としては、しっかりした作りの絵本か図鑑を選ばせるように持って行くつもりであったのだが、子供向けの雑誌のコーナーから二人とも動かない。全く同じにしか見えない二冊であったが、一冊ずつ確保して、それぞれが「これがいい」という。仮面ライダー鎧夢?の武器とベルトが付録で、表紙もその仮面ライダーだから選んだという。わからないのでどこが違うのと聞くと、「指さしながら兄が、「テレビマガジン」と「テレビくん」と表紙の字を読んでくれた。兄の方が分厚くDVDが付録についていた。結局二冊とも買う羽目になり、家に帰ってから、細かい部品をくっつけて、戦闘ベルトを二本工作してやった。かなりの時間を費やした。兄の方のベルトは、紙も薄くて、すぐになより、使い物にならず、不満そうであった。比べて、弟のものは、かたいボール紙でできていて、精巧な作りであった。同じような値段だったので、DVDがついていたせいだということは、歴然であった。大人がそれを何回も説明するが、納得しない。弟にすり寄り、何とか弟のと交換しようとする。弟は譲らない。祖母に本屋には連れて行くまいと思わせた、大騒ぎの一日であった。
 後日談がある。クリスマスに、サンタが、兄弟で一本だが、「本物のベルト」を持ってきてくれたらしい。おばあちゃんの苦労のベルトは、二週間ほどで、お払い箱になったようである。
 
      弟をたぶらかす知恵キリギリス
      今流行る変身ベルトクリスマス
      ボール紙工作付録日短か