藤 圭子

藤圭子が全盛の頃は、私はテレビを見ない下宿生だったので、あまり関心もなく過ごしていたが、それでも、端整な顔立ちで、しっかりと夜の世界を歌う少女の映る画面に惹き付けられたのも、記憶に残っている。少し若い彼女の人生は、ワイドショーの歴史とも重なり、今振り返られることは、報道される度に焼き付けられた画像があるのだった。幸せに終われるはずだった人生が、このような結末になったことが、悲しい。宇多田ヒカルのコメントが、またワイドショーで紹介された。娘として、最大限の配慮に満ちた公式のコメントであった。彼女には、乗り切ってほしい。また自分の歌を明るく、いや悲しくでもよい、聞く人のために、ファンのために、歌い続けてほしい。宇多田ヒカルの全アルバムを求めた1人のファンの祈りでもある。本当は、藤圭子にもそうしてほしかった。赤ん坊を抱いていた藤圭子は、幸せそうだった。あのとき、私は、子育て中だったので、藤圭子のこれからの歌には共感できるかなと、別に抱かなくてもよい期待さえあったと思う。平凡な人生と比べものにはならないだろうが、宇多田ヒカルには、本当にここを乗り切ってほしい。
 
   大人びて少女が歌ふ秋の月
   平凡な我を一突き雷鳴す
   コスモスや強風の痕立ち上がり