京都の出水

京都、嵐山、渡月橋がおおかた水に浸かった。台風の影響で、日本全国に大雨が降り、各地に洪水が起きた。
 私は、学生時代を京都で過ごし、今は、隣接する北摂寝屋川市に住むので、ほんとによく嵐山にも出向く。いまさら観光でもないので、渡月橋を見下ろす位置にある土産物屋の2階の喫茶店から、行き来する人々と川の流れを、抹茶をまぶしたわらび餅を食べながら、ぼおぉっとながめている。
 その目に映っていた景色が、今徐々に水に使っていく様を、テレビが刻々と報じているのだ。河川敷が水に浸かり、渡月橋の欄干もほとんど見えない。いつも人力車が待つ道路もじはじはと浸水し始める。他の地域の洪水の方がもっともっとひどく、たぶん被害も甚大なのだろうが、私は、嵐山のこの様子を見せられて、この大雨被害が今までにないと思った。私が関西に住みついて以後、40年ほどの間に渡月橋が隠れるほどの増水は、これが初めてだったので、それは驚きだった。
 余談ながら、最初、東京発の報道は、桂川賀茂川と間違え、橋の名前も明らかにできず、速報といえども、「京都の嵐山なんだから、もっとしっかり報道しろよ」と文句たらたら不平満々のお粗末なものであった。
 しかし一週間後のニュースを見ると、きれいに元通りになり、観光客も渡月橋を渡っていた。一安心ではあるが、まだ行く気になれない。
   
  楠若葉二階に広き喫茶店
  じはじはと出水ありけり渡月橋
  秋の川元の通りに嵐山