一 ランドセル  二 3年後、弟のランドセル

一 ランドセル 2013/8/27記 
 ランドセルを買いに、帰省した娘と孫につきあって、あちこちと出歩いた夏であった。この年寄りにとっても自分のランドセルについては、思い出が鮮明である。やはり母方の祖母がかって持ってきてくれた。娘にも、母が一緒について行き、デパートで買ってくれた。この頃は、インターネットで下調べをして、販売店で現物を見て子供に選ばせるという。娘には、こだわりがあるらしく、その辺のスーパーにもデパートにも行ったが、やはり、ランドセルの専門店にと、京都や奈良にも店を探して行き、この暑い夏の日中を何日か費やした。どこに行っても同じようなランドセルと思っていたのではあるが、娘は六年間持つものだからとこだわり続けた。専門店とか工房は、まるで隠れ里のように、突拍子もないところにあったが、行き着いてみると、ヂヂババを伴った、6歳児連れの夫婦ばかりが、よくもこんなにというほどに集まって来ていた。結局、奈良の香具山の麓の鞄工房には、二回行き、買うと決めたそこで、娘は、とても大きなランドセルを子供に背負わせて、歩かせてみる、痛いところはないかと聞く、大人のこだわりを捨て、最後まで手を離さなかった子供の好みの一品を購入してやることにしていた。ここまで熱心に選び抜いたものであれば、カードを出しただけの祖父母も、まあ満足のいく買い物であった。目的を達して、近所の昆虫館と、橿原神宮参拝をおまけにつけて、一大イベントは終わった。
 
   青田波藤原京へ橿原へ
   日の盛り買ったよ僕のランドセル
   ヘラクレス昆虫館で見て来しか   *ヘラクレス:巨大カブトムシ

二 3年後、弟のランドセル 2016/7/13記
 あれから、3年、弟の方の孫にランドセルを買う時期になったと思い、もう夏休みも近くなったなと、気にし始めていた。兄弟には、同じようにしてやりたいし、兄の時のあの大騒ぎを記憶しているので、なかなか夏休みの日程を言ってこない娘にこちらから電話した。「二番目は、悠長やろ、小学校も、幼稚園も、役員当たって、行事で忙しいから、まだ考えてないねん。また調べて、子供にも選ばせて、連絡するわ。」インターネットで、予め子供に写真で選ばせて、実物も見せてから決定するという。店は、兄のランドセルを買った、奈良の店に決めているとも。6月三週めくらいの話で、それほど遅くなく、いい時期だと思っていた。
 娘が、その一週間後くらいに、慌てた声で、電話してきた。「今、ランドセル、すごいで、どうなってると思う?」話を聞くまで、予想もしなかったことが起きていた。兄と同じ店では、もう買えないという。インターネットで、よくチケットが数秒で売り切れるという話はあるが、人気一番店のその店で、6月20日に、インターネット注文ありで、来年度用ランドセルを売り出したところ、注文が殺到して、その日のうちに、生産予定数が完売となったという。その店は、店舗の方も閉めて、今年の受付は、すべて終了したとの告知をインターネット上に流しているらしい。まさに、ランドセル・ラプソディーである。
 それでどうするのかと聞くと、夏休みまで待つと、他の店も同じ状態になるから、その週の土曜日に名古屋の人気第3位の店に買いに行くと言う。静岡の店が2位らしいが、静岡の人は同じ物を持っているので、見分けがつくように、他県の店のものの方がいいし、子供がこれというものがその店だからと言う。じじばばは、ここでどう行動するか、少し迷ったが、じゃあ名古屋のその店まで行くわ、と、行くことにした。孫に、じじからのプレゼントと大きな買いものなので、アピールしておきたかった。何より、初めて自分のものを選ぶ、孫の様子を見ておきたかった。幸いまだ車で行けるし、目標が確かな場所は、ナビが連れて行ってくれるので、どんなところか全く知らないところだが、今の私達には、それほど苦も無く日帰りで行けるところであった。娘は、来るのであれば、新幹線でというのだが、移動の楽さと、目的地に即到着という魅力には勝てない。いつまで運転するか、という問題は、かなり決断がいることだと、つくづく思う。何はともあれ、名古屋市近郊の田舎町まで、大阪から、静岡から、双方が2時間ずつかけて、正午頃落ち合った。
 何もない、少し寂れた田舎町であった。見渡しても、こましなレストランはどこにもない。ランドセルを売る店は、広く駐車場を取ってはいたが、3年前と同じで、じじばば、パパママ、兄弟と、6歳児本人、一団が5~6人なので、大きい車が多く、そこだけプチ渋滞が起こっていた。まず、隣のスーパーで、すがきやと、はなまるうどんのみの、フードコートに行って、食事をした。それでも、孫達は、ごく自然に、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒の食事が嬉しいようであった。特に少し前に運動会にも行ったおじいちゃんの人気が上がっていた。遠くまで来て、しかし余りにも普段の、麺類のお昼、面白かった。来れるときに躊躇せず孫には会いに来るものだと思った。この年になると、なにかに急かされる、タイムリミットのようなものが、背後から迫ってくるように思われる。
 ランドセル店もごった返していて、選ぶのも、時間が掛かった。本人が、金ピカのランドセルというのを、親が同型の、おとなしい色に変えさせるのにも、あれこれよそ見をさせつつ時間を掛けていた。兄もあれこれアドバイス?やっと発注の段階に来た。ここも、インターネットでの発注を自宅からしてと混雑緩和を意図して推奨していたが、じじばばはせっかく来ているので注文まで済ませて帰りたい、うちも例外でなく、待って、支払いまで済ませて、店を後にした。
 その後高速に乗る前に、お茶しようと言う事になったが、行き当たりばったりで捜すとなると、なかなか無い。ナビで行けば、土・日は休みだったり、閉店していたり、同じところをぐるぐる、ランドセル店の前は3度通った。やっと駐車場のある適当なところに入った。子供達は、カルピス、大人は珈琲を注文、すると、ケーキセットがメニューに無いと思ったら、ここは、名古屋だと言わんばかりに、おまけのプチケーキとお豆さんが付くのであった。地元感があって、面白かった。
 それから別れて、6時頃には、双方家に着いた。満足のいく一日であった。世間の狂騒のまん真ん中にいても、じじばばの役目を果たせた喜びの方が大きかった。

 名古屋にて落ち合ふ梅雨の晴れ間かな
 夏の日のこの片田舎この工房
 叫騒のランドセル店六月尽
 ランドセル選び切りたる玉の汗
 名古屋流カルピスソーダお菓子付き