「セレネッラ」【第16号・夏の章】を読む

「セレネッラ」
 【第16号・夏の章】を読む
        2018/06/27
        十河智

何故か、またまた手間取り、やっとLAWSONで、手に入れた。遅れた分、皆さんの鑑賞や反応を読ませていただき、期待が膨らんでいった。やはり三人三様、一枚の紙面に醸し出す調和が、なんとも言えず心地よい。

 夏の章。今号は、お三方の六句一連、それぞれのまとまりとしての印象がはっきりと浮き上がってきて、それがかえって通りによって様々に表情を変える街の様子に似ていて、都会的、新しい感じがする。

バトンパス 金子 敦
 透明な空気感と多少の時間を持たせた映像の切り取り。魚拓の句は、少々意外な生々しさであった。
 
でで虫はしろがねいろの全音
魚拓まだ生乾きなる夏座敷
夜汽車から蒼い水母が降りて来る

[燕]今巣立ちの子燕が、そこいらじゅうの空を飛び交っている。「セレネッラ」の情報は、早くて近い。今日見た子燕たちの昨日の様子と思う。裏口から出入り、敦さんの子燕は、まだいたのかしら?

夕立 中山奈々

 今月の奈々さんは、きつちりと叙述する。たぶん住む町の最寄りの駅の近辺。ありきたりのようでそうではない独特さ。「四丁目沿ひの」「夕立の底より」「ひとびとが」。一句一句に、この作者らしい視点を示すキーワードがあるように思う。

四丁目沿ひの夕立のはげしかり
夕立の底より展示ブロックが
切手貼るひとびとが夕立のなか

[びずつかん]奈々さん、ことばは、発することが一番大事。聞く方からも歩み寄りがあるはず。読みながら、そう言っている私。

淡水魚 中島葱男

くっきりとさらっと俳句らしく表現されていて、すがすがしい。

恋文や青芝の秀の無重力
菓子箱に丸窓のあり若葉風
羅や汽水にくだる淡水魚

[理想ホテル]ホテルの名前とは意外。サービスの中味も多分満足していらっしゃるのだろう、そんな感じを受ける文面だった。

俳友客演ーーー
 夏の草木 堀本 吟

固くしっかりと組み立てられた言葉の俳句。意味が明確でどこにもいかない俳句。ゆえにかえってその意味を深く考えさせられた。

鳶の輪の接点は尾根葛若葉
 視界の広がる空があり、鳶が二羽、その輪を描く飛行の全容が見える。鈴鹿を抜けた関ヶ原辺りを想っている。雄大でかつ寂寥。

青薄おとこは雲切仁左衛門
 雲切仁左衛門と言えば、昔テレビでやっていた。イメージは残っている。そんなに若くはないが、すっと立つ壮年の姿よき男である。青薄が意表を突いた。男の年輪を際立たせるように思った。
 
薔薇紅しちりばめられし棘のゆえ
 紅いもの、薔薇、そして、棘に傷ついた指から滲む血、指先の肌の白さを仲立ちに、紅の色合いが変わる。

【私の好きな季語】

「夏」の草田男

毒消し飲むやわが詩多産の夏来る 中村草田男

知らなかった面白い句を一つ覚えて、得をした気分である。
厳密には、毒消しを飲まなければならない状況の夏が好きなのではなく、「夏」の季題の創作させてくれる活力が好き、と言っている。「わが詩多産の」この活力が好きなのだ。草田男の句に託して、俳句は詩であり創作であることを認識させてくれる文章であった。