ESS 2018彦根の散策旅

ESS 2018彦根の散策旅
      2018/05/24
      十河智
 大学時代もESSで活動した。 あの大荒れの頃でも、まだ四回生の夏くらいまでは、平和だった。毎日、昼休みに会い、放課後に会い、夏休みに合宿、デベイトの東京遠征、年一回のドラマ公演、ホームミーティング(HM)という下宿や自宅を会場に提供してくれる部員のところで、親睦を深める活動もあった。多岐にわたる活動で何重にも縁の重なる人たちが、卒業後落ち着いた頃から、行き先と宿だけ決めて予約してくれる感謝しかない世話役のお陰で、もう二十年以上、年一回の関東関西交互の一泊旅行をしている。ESS の枠を越えて、夫婦で参加も可能。初めから、夫妻ともESS という人もいるからであり、今はもう奥様方も仲間内である。うちも誘ってみるが、ついてくる気はないらしい。
 今年は彦根市、十二人参加。彦根駅集合。
 彦根城近江ちゃんぽん、日曜日の町は静かだった。彦根城は山城で急な道がほとんどなので、私は城には登らず、博物館と玄宮園というお庭を廻っただけであるが、その後の宿までもかなりの距離歩いた。またまた皆を待たせたり、ペースを狂わせたしまった。それでもいつも誘ってくれるのが嬉しい。こうして元気な人について歩くことで、一頃よりは、ついていける。宿への途中、もう少しというところで、見るに見かねた地元の方が、自動車で送ると声を掛けてくれた。ちょっと驚き躊躇した、が、乗せていただく。そのほんの少しのところが、嬉しかった。でもこの白髪と歩く姿から、私は同年代の連れの母親とまた勘違いされていたらしい。
 かんぽの宿に一泊、近江牛を含む地産のごちそうメニュー、カラオケ。そして寝る前のディスカッション、HM である以上、ここは絶対ありなのだ。
 今年のテーマは「私の選んだ本」、テーマはその時々の意見の別れるような込み入った話題もあった。だが、年年、年寄りになったためか、宴の後の疲れと酔いに勝てず、眠りへと脱落する人も出てくるのだが。
 今回、やはり皆用意していて、紹介される本は、どれもこれも面白そうである。私も美味しい冷酒に酔っていて、全部鮮明には記憶していないのだが、篠田桃紅さんの百歳を越えた生き方を語った本、物理学や生物学の最近の成果をまとめた本が何冊か(「生命の惑星」「形の生物学」他 )、これらの本の時には、人間の人たる存在としての統率力は何によるのかという疑問や結局は微粒子として究極に行き着く話、銀河系の話、自分の消え入り方の話にまで、とりとめもなく、話が広がっては、まとまらないで終わった。イアン・マキューアンの「贖罪」、粗筋を聞かせてくれた。人の理解はどの人からも自分の見方が真実になって続いていく。そのようなことが主題のようだ。何かこの二三日の間に広がっているアメリカンフットボールの話に共通する様である。
 この頃のヨーロッパの情勢などを話題にできる書物もあったが、あんまりはっきりとは覚えていない。メルケル首相は失敗したとか言っていた。
 私は、「俳句の背骨」「都市と野生の思考」を持っていった。俳句に興味をもってほしいなと思って。哲学者とゴリラ先生の対談は本当に面白かった本なので。
 一時間ちょっとで各部屋に戻った。単身できた女子二人、布団の中で、積もる話をした。いつのまにか寝ていた。
 翌日、朝は水もののみの私だが、赤こんにゃくのきんぴらをいただいた。味は変わらぬこんにゃくであった。赤は鉄の色だそうだ。
 二日目は、またみんなが私に合わせて、町並み散策ということになった。石田三成佐和山城も山城で、私のことを考慮してくれた結果であろう。商家として生きている通りがそのまま町並み保存地区になっていた。きれいでゆったり歩けた。
 "たねや"という和菓子も洋菓子も売る店に入った。ふと気がついた。ここのバウムクーヘンが美味しいと聞いていた。少し前、弟がこの辺に来ていた。団体客とかち合って、買えなかったとも言っていた。連れの中にも、シュークリームを頬張る人がいた。家に土産のバウムクーヘンを買い、弟に送ってやった。真ん中辺りで、私は水の流れる繕いをした屋根のあるベンチを見つけ、そこで待つことにした。スマホのメモに俳句を書き付けながらで、時間はすぐに過ぎる。
 呼び出しの電話がなった。スマホはとても便利だ。自分のペースで離脱しても、これで復帰可能なのだから。
 "ほっこりや"という店で絶品の比内地鶏の親子丼が昼食だった。その後、近江牛の店で夜のお肉を保冷剤を四時間持つと確認して、買って帰った。塩コショウで炒めて夕飯を食べた。主人もまあ喜んでいたかな?

湖の近江に田水張られたる
今新た飛行機雲や近江夏
夏の天鈴鹿山地に道隠れ
代掻くや始めて降りる彦根駅
彦根には城が二つや夏の空
薄暑光西口少し繁華街
近江ちゃんぽん地産のきやべつ甘きかな
青葉寒近江駅より城遠し
日曜は休む商店夏日陰
滴りや彦根の城は山の上
片陰のベンチに荷物番をして
青嵐玄宮園の池広し
夏の暮窮地救うてくれし人
夏の宿伊吹の山は真正面
どくだみ湯好み分かれて宿の風呂
祇園祭余生の趣味は写真とな
夏灯ししつかりと老い番ひ切る
皆本を放さず生きて夏の宿
どつと来る疲れ冷酒も呑みすぎて
小満や近江の朝の赤こんにゃく
商ひの町散策す夏の花
保冷剤十分にして近江牛
楓若葉水音のある休息所
夏の昼絶品親子丼の店
近江ゆく電車日除を挙げにけり
あの青嶺名は三上山近江富士
夏に来し琵琶湖の畔思ひ出も
夏の夕それぞれ降りて行く電車