上田信治句集「リボン」を読みました。

上田信治句集「リボン」を読みました。       2017/12/05
        十河智

 先だって購読会員になったばかりの「里」の同人、上田信治さんの句集「リボン」を贈っていただいた。
 読ませていただいて、印象を表す言葉を探した。入れ込まれた栞に、「絵にもかけない」と題して中田剛さんという方が書かれている感想が、納得できて近いと思った。「うつくしさ」の言葉の持つ意味合いについても、なるほどと思う。読んでいるうちに、波多野爽波を思い浮かべつつ、違うかなと、何かを探していた結果、私は「透明」という感覚に行き着いたのだが、中田さんは、「純粋」、「素直」と言っておられる。私の言葉を使えば、爽波の句キラキラ反射する光を感じるのだが、上田信治さんの句は、例えばすっきり晴れた青空、水底の小石や藻まで見える泉、そんな、いつまでも飽きず眺めていることができる透明感がある。
 ますます、俳句の読者でいることが楽しいと思わせてくれた、この句集。人が違えば、その数だけ、俳句の有りようが違う、深く探るもよし、街角であったお洒落な女の人の、そのファッションセンスに見とれる幸せだけを感ずるだけでもいい。
 この句集は、著者があとがきで書くように、雑踏の中で、目を引いたおしゃれさんには、目的の待ち合わせ場所があり、向かっているのだ。作者は、彼女(俳句)を「少しでも遠く」、歩かせたいのだ。私は「ただ感じよくだけしていたい」お洒落な彼女に遭遇する。その事が、嬉しくて、幸運だったと思う。
 句集は六章、好きな句を挙げると偏った。Ⅰ、Ⅴ、Ⅵから多く採らせていただいた。作者の言う「書き方の違い」によるのだろうが、あまり考えずに読み進んだ結果、そうなった。

好きな句を挙げさせていただく。


うつくしさ上から下へ秋の雨
石鹸玉へと夕焼のつめたさよ
山々や芋虫は葉を食べてゐる
四つ割の柿と写真の二三枚


溶接の火花すずしく油蝉

今走つてゐること夕立来さうなこと


CDのセロフアンとれば雨か雪
野兎のとても煮られて血のソース

海鼠には心がないと想像せよ
うつとりと晩夏をおちてゆく兎
上のとんぼ下のとんぼと入れかはる
春きやべつ心のこもつた良い手紙
たとふれば酢豚のパイナップルとして


日を受けて冷たくレモン生る木あり
放ちて楽し冬の金魚のやうな句は
立子忌のある晴れた日のリボンかな
リボン美しあふれるやうにほどけゆく
あれは鳥雲にリボンをなびかせつ
とことはに春や三月リボンは白
桜咲く山をぼんやり山にゐる
秋の魚かさなりあつて眼が大きい