有元利夫展へ……大山崎山荘美術館の紅葉

有元利夫展へ
  ……大山崎山荘美術館の紅葉

      2017/11/23
      十河智 

 先日の大山崎ふるさとセンターでの句会の前日、森賀まりさんがメールで、゛句会場に近いので、句会の前にいかがですか。゛と、朝日新聞の記事を添えて、アサヒビール大山崎山荘美術館で開催中の有元利夫展を紹介してくれた。この人は嘱望されつつも38歳の若さで亡くなった画家、この人の絵に、田中裕明の残した句もあるという。
゛雪解川有元の絵にからだ浮く 田中裕明
の「ロンド」も来ています。゛
あまり馴染みのない画家、訪れたことのない山荘美術館に、興味が湧き、いつも高槻まで送ってくれている主人を誘った。
 晴れてはいたが、湿りのある空気に、天王山の全景が、色とりどりの紅葉でまさに装っていて、綺麗だ。JR京都線山崎駅近くで車を下ろされた。幅広いJRの踏切を渡るとトンネル、その向こうも切り岸が顕に続き、山の中へ急な坂である。少し行くと住宅街があった。もう紅葉は散りかけて、木々の間を舞っている。冬の鳥たちが、高いところで甲高く鳴いている。天下分け目の天王山、注意書も秀吉さんの力を借りて脅している。ひときわ堆く、ひときわ黄色く銀杏落葉の吹き溜まりがあった。元の木を探す。そうこうしているうちに、最後の曲がり、美術館の前に休息所がある。まだ登りが続くようなので一休み、ここの自販機はもちろん゛Asahi ゛、缶コーヒーを飲んだ。
 新聞に載ったせいか、日曜日だからか、人は多かった。大正時代の洋館と、安藤忠雄の近代的な建築、どちらもよかった。
 有元利夫の絵は、特徴ある人物画が主で、暖かい色合いであった。直筆の墨跡も展示されていた。この軟らかい筆致の字は、なぜか私の受け取った田中裕明さんの太めのブルーブラックの万年筆の文字を思い出させて、胸に響いた。
 有元を一通り見終わったところで、二階の陶磁器の常設展示を見に上がる。陶芸が趣味の主人が喜んだ。
 ホテルが運営する喫茶があった。有元の絵をモチーフに焼いたケーキでお茶をした。テラスに出て、紅葉する風景の写真を撮った。隣接のお寺の三重塔が木立に隠れて、全景が見えず、残念だった。またの機会に見に行こうと思う。句会のお仲間を何人か見かけてご挨拶した。
 帰りの下り坂は、往きよりも速く楽だった。手摺に気がついたし、サントリーへの小さな矢印にも気づいた。踏切まで降りた頃、少し時雨があった。阪急大山崎駅で主人と別れ、パン屋さんで昼食、句会場に入った。
 席題の一つが「絵」、この展覧会を題材に句が作られていた。有元の絵の色彩の暖かさや特徴ある人物を捉えた句が出ていた。何となく華やいだ気分の句会であった。

天王山装ひにけるその中へ
踏切を渡り切りけり紅葉山
トンネルに切り岸続き冬館
秀吉の道汚すなと凍えけり
冬の鳥天下取りたる天王山
元の木を探して見上ぐ銀杏落葉
実千両美術館までまだ遠し
洋館の大正暗し冬の空
凍て雲や安藤忠雄夢の箱
枯蟷螂有元利夫若く死す
有元の絵も墨跡も冬暖か
裕明の筆に似る書や散紅葉
有元を愛で俳人も若く死す
塔が好き隠す紅葉を咎め立て
冬の窓展覧会の絵がケーキ
急坂を感じつ降(くだ)る落葉道
SuntryAsahi天王山の寒の水
踏切まで楽に下れば時雨かな