高橋亜紀彦句集「石の記憶」、またまたいい句集に出会う
高橋亜紀彦句集「石の記憶」、またまたいい句集に出会う。
2017/10/16
十河智
高橋亜紀彦さん、フェイスブックのお友だち、あまり句をUP されることはない。熟考を重ねて、厳選句を結社誌に投稿されるようだ。句作の苦労については、よく吐露されている。句集を上梓されたと聞き、読ませてくださいとお願いした。
フェイスブックの写真や呟きから、勝手に少しひ弱でお洒落な都会人、少年の残る大人を想像していた。このイメージは、句を読んで、修正された。句集に現れる亜紀彦さんは輝いている。金属のしっかりとした堅さと鈍い光沢、例えるとそんな感じだろうか、「いぶし銀」、真のぶれない強さと人を突き放さない優しさ、細やかさ。決して冷たいだけでも、あどけないだけでもない、慈愛に満ちた大人だと思い至った。
この句集には余白がない。本の白い紙は、大事な句、一句一句を見せるための展示台である。金属加工の美術工芸作品のように、光る方向まで計算されて、形作られ、展示されている。一句の味わいを楽しんでは次に進む。句集という展覧会場を出たとき、また作品を読みたくなる作家、俳人の亜紀彦さんを見つけた喜びがあった。
「今日、届いて、一気に読みました。爽快な気分です。俳句は、おもしろいですね。作者によって、全く違う。
切れ味がある、整った一句が並ぶ作品集でした。またいつか感想を書かせていただきます。とりあえずお礼を申し上げます。智」
届いた直後に、寄せた感想である。これから何回か読み返した。心に残る句を揚げる。
マスクして可愛い声の薬剤師 高橋亜紀彦
…私の一番好きな一句は、これ。私のはずはないが、嬉しい。
順に挙げると、
敗戦忌光復節といふ友も
星月夜困った時の無人駅
赤い羽根慈善偽善の区別なく
見つけたる花野の少女妻だった
秋の川石には石の記憶あり
死後のこと誰も知らずに日向ぼこ
犯人のごと手袋を始末する
煩悩の消えてよいのか除夜の鐘
鮨屋の「し」妙に長かり日脚伸ぶ
白菜の光束ねて漬けにけり
死を語る人みな生きてをり冬日
痴話喧嘩水仙の香に止みにけり
子守唄聞きて泪の雪女
たぶん此の月輪熊は一人つ子
にんげんのいたるところが朧なる
初蝶はすでに誰かが見てをりし
うららかに妻は渋谷に家出する
すめらぎを巡るいざこざ月朧
ワンタンのふるふる白し春の夜
ブランコや職務質問不意にさる
鼻歌の妻の刻める独活の音
出鱈目に鳴る風鈴は嫌ひなり
真青なる黴の食パン美しき
アイスクリーム買ひに行きそれつきり
何が悲しうてでで虫を苛めるか
高橋亜紀彦句集「石の記憶」より
2017/10/16
十河智
高橋亜紀彦さん、フェイスブックのお友だち、あまり句をUP されることはない。熟考を重ねて、厳選句を結社誌に投稿されるようだ。句作の苦労については、よく吐露されている。句集を上梓されたと聞き、読ませてくださいとお願いした。
フェイスブックの写真や呟きから、勝手に少しひ弱でお洒落な都会人、少年の残る大人を想像していた。このイメージは、句を読んで、修正された。句集に現れる亜紀彦さんは輝いている。金属のしっかりとした堅さと鈍い光沢、例えるとそんな感じだろうか、「いぶし銀」、真のぶれない強さと人を突き放さない優しさ、細やかさ。決して冷たいだけでも、あどけないだけでもない、慈愛に満ちた大人だと思い至った。
この句集には余白がない。本の白い紙は、大事な句、一句一句を見せるための展示台である。金属加工の美術工芸作品のように、光る方向まで計算されて、形作られ、展示されている。一句の味わいを楽しんでは次に進む。句集という展覧会場を出たとき、また作品を読みたくなる作家、俳人の亜紀彦さんを見つけた喜びがあった。
「今日、届いて、一気に読みました。爽快な気分です。俳句は、おもしろいですね。作者によって、全く違う。
切れ味がある、整った一句が並ぶ作品集でした。またいつか感想を書かせていただきます。とりあえずお礼を申し上げます。智」
届いた直後に、寄せた感想である。これから何回か読み返した。心に残る句を揚げる。
マスクして可愛い声の薬剤師 高橋亜紀彦
…私の一番好きな一句は、これ。私のはずはないが、嬉しい。
順に挙げると、
敗戦忌光復節といふ友も
星月夜困った時の無人駅
赤い羽根慈善偽善の区別なく
見つけたる花野の少女妻だった
秋の川石には石の記憶あり
死後のこと誰も知らずに日向ぼこ
犯人のごと手袋を始末する
煩悩の消えてよいのか除夜の鐘
鮨屋の「し」妙に長かり日脚伸ぶ
白菜の光束ねて漬けにけり
死を語る人みな生きてをり冬日
痴話喧嘩水仙の香に止みにけり
子守唄聞きて泪の雪女
たぶん此の月輪熊は一人つ子
にんげんのいたるところが朧なる
初蝶はすでに誰かが見てをりし
うららかに妻は渋谷に家出する
すめらぎを巡るいざこざ月朧
ワンタンのふるふる白し春の夜
ブランコや職務質問不意にさる
鼻歌の妻の刻める独活の音
出鱈目に鳴る風鈴は嫌ひなり
真青なる黴の食パン美しき
アイスクリーム買ひに行きそれつきり
何が悲しうてでで虫を苛めるか
高橋亜紀彦句集「石の記憶」より