川柳句集「アンモナイトを踏んでから」久留素子著

川柳句集「アンモナイトを踏んでから」久留素子著
      2017/9/13
      十河智

 川柳句集というのは初めてであった。Facebookで、久留素子さんの川柳は日頃から読ませていただいていた。ご本人のタイムラインには、日常の心の葛藤をあまり隠さず吐露される、普段手にする句集よりはかなり著者への予断の大きいところで、この本を手にし、ページを開いた。
 上品で美しい装丁の、「アンモナイトを踏んでから」という不思議な題名、読む前に魅力一杯の本である。私の持っていた予断、愛憎の果ての泥沼、などはどこにも見当たらない。見開きの真っ白な余白に、六行、十七音の詩が並ぶ。帯に書かれた「愛の賛歌」となって、昇華していく。著者の日常から切り離されて、万人のなかに隠されている感覚や感情、認識が、ひとつの言葉、一行の句、一連の詩、この本をそう読み進んでいくとき、呼び起こされて、胸を突き上げる。人であれば、敢えて言えば、女であれば、誰しも人生の過程にあった艱難辛苦のとき、身に覚えのある哀歓であったと思い至る。

〈かなりドキッとさせられた句〉
内臓のさみしい部分食べている
差し出す手握るは無間地獄なり
「死ね」という言葉を生んだヒト科の子
榴弾ピンを外したこの私
海賊のナイフを持った使命感
有志鉄線張られて獄の遊園地
花を摘む生まれそこねた子供たち
銀杏の手半分道に溶けており
もう一度目を開けるまで叩きます
ガラス片飲み下しても欲しいもの

〈好きな句、おかしみの句〉
しあわせになりたいなあとおばけいう
ついさっき幸せだったあほう鳥
ひとりのひとのひとつのこえにいかされて
歯ブラシの数だけ過去を捨てていく
悲しいを割ればお箸になる食べる
この痛みアンモナイトを踏んでから
同じ星ふたりでブランコしていよう
好き一段大好き二段降りていく
靴だらけ 洋服だらけ あ 風船
間違えてピンクをだした信号機
観覧車降りたら異次元かもしれず
青空のなんて綺麗な不幸だろう
思い出の飛び石踏んで還る海

〈気に入りの一ページ〉
(p11)
ひとつずつ魂が降る粉雪よ
みぞれ降る心の芯も氷点下
銀河から手繰り寄せたき星の糸