金子敦句集「音符」… 音楽であり絵画、リズム・ハーモニー・色・光と陰

金子敦句集「音符」… 音楽であり絵画、リズム・ハーモニー・色・光と陰
      2017/8/16
      十河智
 金子敦句集さんの句集「音符」を読んだ。金子さんはFacebookのお友達で、カラオケ、猫のすず、俳句教室、ベランダの菜園での収穫物のことなど、タイムラインにUPされて、楽しく読ませていただいていて、俳人であることは知っていましたが、俳句自体は、たまによそで取り上げられたことを報告されるだけでしたから、本格的には、この「音符」が初めてです。FB にも、出版のときのご苦労から、体調を崩されたご様子があり、力の入った期待される句集でした。皆さん、読まれたかたの、評判もすごくて、手に入れる前から、わくわくしていました。
 実際に手に取ると、カバーは白地に金色の「音符」という文字が落ち着いていて、明るいレモンイエローの流れる五線上にト音記号と音符が舞い、同じレモンイエローの帯へ黒で繋がっていきます。本体の表紙と見返しもレモンイエロー、とても気持ちよい上品な装丁です。
 後で触れますが、装丁からのイメージも含めて、句集としての一冊に、大袈裟かもしれないのですが、作品としての価値、芸術性を見いだしたのでした。

 まず、好きな句、十五句を挙げます。
 うづたかき瓦礫に蝶の生まれけり
 春惜しむ画鋲を深く刺し直し
 急用のごとく夕立去りにけり
 箱庭に小石を置けばそれは山
 菜箸は糸で繋がり星祭
 つぶあんこしあん派ゐて月を待つ
 漆黒の楽器ケースやさくら散る
 夜の秋や机に明日出す手紙
 ボンカレーの看板錆びて花カンナ
 母の日の象のかたちの如雨露かな
 思い出をこはさぬやうに桃を剥く
 おもちゃ箱のやうなコンビニ冬青空
 炎帝が雷門を跨ぎけり
 フランスパン抱いて冬薔薇選びをり
 陶枕に夢のあらかた吸ひ取らる

 次に、この句集一巻としての、全編を通しての見事さ、私の感じた思いを述べておかなければ、この読後感想文は完結しないと思います。

 初夢のどこでもドア開きけり
 春を待つとんとんとんと紙揃へ
 あたたかやトトロの腹で寝ればなほ
 つくしんぼスタッカートで歌ひ出す
 三拍子で弾んで来たる雀の子
 ももいろの素甘をつまみ春の風邪
 白南風や楽譜に大きフォルティシモ
 フェルメールの光を曳いてゆく蛍
 亡き母のメモの通りに盆支度
 盆踊果てて手足のただよへるい
 クレープに七色の粒小鳥来る
 恐竜を組み立ててゐる夜長かな
 心臓の辺りに挿され赤い羽根
 冬薔薇にためらひ傷のやうな翳
 イートハーブの星の匂ひの冬林檎

 FAX のぢぢぢぢぢぢと冴返る
 恋猫が古き手紙の束を嗅ぐ
 春きざすメトロノームのアンダンテ
 まんさくやト音記号に渦いくつ
 春愁やうどんに七味たんと振り
 たんぽぽやたぷんたぷんとペンキ缶
 緑蔭に憩ふピエロの無表情
 噴水の息吸ふごとく止まりけり
 シンバルの連打のやうな残暑かな
 黄ばみたる岩波文庫秋ざくら
 秋薔薇にボサノバの音滲みにけり
 待宵やマリオネットの舞ひはじむ
 流れゆく雲へ矢を向け菊人形
 十二月八日やシュレッダーの音
 音符揺れ音符と触るる聖樹かな

 少したくさん過ぎる引用になりましたが、この文章の題に添えた、「リズム・ハーモニー・色・光と陰」これを感じてもらえると思いました。オノマトペが多用され、俳句のなかに素材として置かれた音楽の言葉が、そこで本来の音楽における意味を発揮し、読み手にイメージを与え、想像させるのです。お菓子やクレヨン、虹、花、絵画、俳句に読み込まれたもの様々な色が、光に映えるのです。句集の余白、行間の印象は概して仄かで明るい。そしてところどころに休止符のごとくに、少し陰影を見せる句が置かれています。この句集は、金子さんのあらゆる興味が、言葉になって句に現れる踊る音符であり、ひとつひとつの句が、一小節となり、一章で一曲となっている音楽のような感じがします。また、見ようによっては、色を重ね、素材を構成した絵画となっていくようにも感じます。現実ではなく、印象としてなのですが、この句集の読後に、一曲の軽い音楽を聴き、メルヘンタッチの絵を一編鑑賞したあとと同じ感覚を得たと思うのです。