温泉郷


温泉郷
          二〇一六年一〇月二十三・二十四日
          下呂温泉高高女子会
                                        十河 智
 京都よりさあ十月の女子の旅
整ひし八条口に秋の声
秋風のベンチ早々一人来る
秋の服しやきつと決めて快癒らし
肌寒きホームやのぞみ十六号
名古屋より岐阜それよりの秋の山
秋深し宿の名示し並ぶ駅
秋の橋送迎バスの一・二分
秋気澄む宿の小綺麗なる安堵
ロビー広しひとまづ荷置く秋の昼
まづは風呂温泉宿のやや寒に
秋草や仲居は中国よりの人
ひと寝入りして秋寒に目覚めけり
秋冷やエレベーターも階段も
身に入むや食事処に行き着けず
神無月献立とあり一合酒
一人寝て夜長を語り尽さざり

早起きの人湯の町に秋時雨
ローソンの看板の青秋霖
新松子黒塀に歌出で来たり
バスを待つ山霧咽ぶ温泉郷
帰り花移築の合掌造りかな
茅葺きと水車や狭霧立つ中に
下呂下呂と蛙置かるる秋の池
薄紅葉あの伝説の白鷺か
火の恋し甘酒売りの忙しく
鈴小さく鳴らす水車や秋の水
秋雨に帽子が濡れて鴉の像
暮れの秋岩魚あまごを焼く炭火
円空仏彫り出す木っ端野菊咲く
嫗ゐて草鞋造りの秋炬燵
石臼や木伐りの道具ななかまど
二階へは無理待つ間の秋思ありにけり
吾亦紅見せる背中の老いにけり
庭園に赤のまんまの自づから
露草や雨を喜び咲きにけり
赤き傘元気さうなり紫苑咲く
実むらさき透明傘を返さねば