鯖街道

鯖街道      '98.3.21
                   十河 智
 1 春の駅スペイン国旗のVIPあり
 2 ESS卒というのみ春の旅
 3 百千鳥人生の達人もをり
 4 中空へ苔むす庭より春の霧
 5 現代は埋め尽くされて春埃
 6 本葛を疑ふ春の寒さかな
 7 江戸のまま熊川の宿彼岸なり
 8 瓜割りの滝や詰めたし春の水
9 春時雨潺潺(せんせん)水湧く紅き石
10 若狭なれ栄螺常節鯵を焼く
11 写真屋とカメラ談義や風光る
12 箸ごとき説きて買はすな梅一枝
13 塗り箸に不器用模様春灯下
14 水送る寺に句碑あり春疾風(はやて)
15 墨染めの僧声や好し彼岸講
16 日送りやこの古寺(こじ)の嫁異邦人
17 げんげ道子供自転車横たはり
18 都より外れ来しほど朧かな
19 細やかに春意尽くして鯖街道
20 春の海鯖街道の基点なり
21 遅き日や鯖寿司買ふを躊躇(ためら)ひぬ
22 春衣所作見事なる女将かな
23 父祖の地を採りて世久見屋彼岸河豚
24 飯蛸や思惟あり古き良き時代
25 新入生人生仕上げて後のこと
26 春興や鮮烈に皆語りゐる
27 齢(よはい)なし年輪は見え春浅き
28 長々と酒酌み交わす春の宿
29 亀鳴くや一事のありてはや医師に
30 焼海苔や屹とひっ詰め別の顔
31 一山を雀隠れに原子力
32 羊歯萌ゆる谷間に原発封じ込め
33 春落葉コンクリート90センチ不安
34 天涯に要塞がありのどかなる
35 春陰や我も社会の一分子
36 エルパーク・ウォーターボーイ君村霞む
37 波乱なく岬の鴎春の波
39 春なれどガラス壁幾重今匠
40 問答や生計(たつき)生業(なりわい)現れて
41 鳥雲に飽食忘我を離脱二人(ににん)
42 鄙びたる農家が劇場木の芽雨
43 北開く竹人形が待機中
44 回想の水上文学濡燕
45 子雀や若州一滴文庫あり
46 ブンナブンナ読み聞かせせし蛙なり
47 手招きや素朴に応じ黄水仙
48 きなこ餅一つづつ分く忘れ草
49 草餅の香を持ち帰るそれぞれに
50 春の月五臓六腑をすげ替えし