北浜界隈

 姪は都島に住んでいて、北浜の勤め先に通う。
 専門学校に通学していた頃は、寝屋川の伯母、すなわち私の家に寄宿していたので、いつまでもお一人様なのが気にかかり、今も月一くらいで、”お茶”したり、”お食事”に誘ったり、相手はうっとおしいだろうが、何かと世話を焼いている。たまに、彼女の指定する、中の島や、北浜、天満当たりまで出向き、おしゃれな喫茶店に待ち合わせて、話をする。
 若い人の、デザイナーという職業柄の”おしゃれ”感は、私の思うそれとは、少し違っている気がする。退職後は、主人とも気晴らしにお茶する行きつけの喫茶店を持っているが、どこも明るくて、開放的、しばらく本を読んで時間を過ごせる静かな空間である。姪の好む場所は、川沿いの個性あるインテリアのちょっと穴蔵的な店、マニアックで、コーヒーがおいしかったり、カレーが絶品だったり、店主のこだわりが見えるところである。狭くて、すぐに人でいっぱいになるので、あまり長居はさせてくれない。私には見えていなかった、そのような店が、北浜界隈にはいっぱいあるようだ。待ち合わせの度に、違う店を指定するのだから。
 同じく、北浜に大阪美術クラブという古い会館があり、毎年ある書道の会派が社中展を開催する。お世話になった方で、その会派の重鎮でもある方の作品が年一回見られる楽しみで、先日、北浜へ出かけることがあった。そのあと会うことにして、姪が指定してきたのが、なにわ橋たもとの川側にテラスのある喫茶店であった。
  まだ10月の末であったが寒い日で、あいにく外のテラス席しか空いていなかった。店に用意の膝かけも使い、アールグレイティーポットの暖かさを撫でながらも、膝はがくがく震えている。夏なら最高だろうに。一時間ほど、仕事がきついとか、余裕がなくて仕事以外何もないとか、姪のそんな話につきあう。それでも川に観光船がいき、乗船客が手を振ると、つい、こちらからもお返しに手を振りたくなる。また、ウィンドサーフィンに出て行くボードに直立するウェットスーツの若者のド派手さが、秋寒の都会の川面には、異様・不気味で、それもまたおもしろかった。
 
     秋澄むや混み合ふ河畔のカフェテラス
     橋潜るウィンドサーファー肌寒し
     墨跡に夫を失ふあはれかな