京都府立植物園 ーーー 年寄りに優しい行政

京都府立植物園
  ーーー 年寄りに優しい行政   

      2017/9/10
      十河智

 久し振りに京都府立植物園に行こうと思った。大雨が続き、朝晴れても、一日一回は雨、という日が続いていた。Facebookでお友だちが行きたいと言っていたのに触発された。夏は終りだが、まだまだ暑い。今は何が咲いているのかも考えず、「そうだ、今日は植物園へ行こう。」と、出発した。
 植物園へ行くときのお昼は、北山通りのどこかの店に入る。この日は、Volks 、ランチが安くて、サラダバイキング、パンも食べ放題。コーヒーはお代わり自由。駐車場はコインパーキングでサービス券つき。居心地よくてゆっくりしすぎた。植物園に川沿いを廻って、門前の駐車場に車を入れた。
 京都府立植物園の正門前は、鬱蒼と木立が続く長い道の果てが広場になっていて、蜻蛉の大戦隊が、その薄暗い空間に静かに飛行していた。今年初めてこれほど大量のトンボを見た。
 と、植物園の脇道から、赤い打ち掛けの裾を持ち上げて花嫁さんがやって来た。この辺りに結婚式場があっただろうか、植物園で写真?とか、思っていると紋付き袴の花婿さんがうつ向き加減で通っていった。お幸せにね、と袖振り合うも多生の縁、二人の背中に祝意を贈った。
 植物園で入園券を買おうとした。とそこで、京都に住む友人から、70才以上無料だから、散歩によく行く、と聞いていたのを思い出す。念のため、入り口の警備員の人に聞くと、証明書があれば、府民でなくても無料と言う。二人の運転免許証を提示し、入園。閑散。
 正門から入ったところは温室までカンナの花壇、もう盛りを過ぎて色褪せていて憐れ。その次の池は蓮が終り、睡蓮が残っていた。外国の睡蓮のようで、花が大きくて、なんとも言えず美しい青紫であった。見事さに吸い寄せられて、暫し見入った。手入れの人が池に入っている。
 池に掛かる橋を渡ると温室である。私は秋の句を探しに来たので、散策に森の方へ急ごうとした。主人が温室へ入ろうと入場券の自販機で買ってしまった。遅れて入り口に行くと、ここにも「証明書により70才以上は無料」と、貼り紙に書かれていた。正門とは別料金だが、お年寄りには手厚く優しい。係員は既に二人分400円を返金するべく待ち構えていた。
 写真を撮る人が、ここにもいた。ハイビスカスやバナナ、沖縄を思い出す。迷路のように長く、外に途中から抜けられず、四時過ぎになった。睡蓮の見える橋の上で、同年輩の人が話しかけてくれた。珍しい花の色を見られ、嬉しいと。主人には先に行かれていたので、電話で駐車場で待ち合わせることにし、その後は森のベンチで、色なき風と秋の蝉を楽しんだ。
 閉園までに外に出て、駐車場で、小銭入れがないと主人が探し出した。温室の係員や正門にも聞いたがみつからない。あれこれと考えて助言したつもりが、指図とおもったのか、愛用の小銭入れが出てこず、イライラ、帰りの車のなかは最悪だった。八幡、長尾辺りまで、無言で通す。まあ四十年以上夫婦でいると何回か経験済みの事態。長尾の家具団地付近で渋滞となる。小一時間で原因の事故現場を抜ける。事故の大きさに自然と会話が戻っていた。
 無事家に着いた。小銭入れがあった。「やっぱりな、そうやと思うとった。」主人の嬉しげな呟き。最初から持っていなかったのだ。平静を装い、私は自分に、台所仕事に集中するのだといいきかせた。

あきつ群る植物園入口前広場
花嫁に続き花婿秋日影
打ち掛けの紅が鮮やか涼新た

つくつくほうし植物園は五時閉園
色褪せる背高きカンナ花壇かな
黒蟻のせつせとベンチへと来たり
青き実の垂れて爽頼吹き抜けて
園の森紫しじみ追ふ静寂
蜩や烏も塒目指す時
薮蘭の三筋むらさき薄ら闇
秋暑し温室にあるバナナの木
睡蓮の青紫を愛で語り
秋の陽を浴びる平日植物園
銀やんま水面すれすれまで堕ちぬ

失せ物に辿る記憶や破れ蓮
つい詰る秋の入り日に帰る時
渋滞の先の先事故草の花
大事故に会話再開花芙蓉