森和俊著「細胞の中の分子生物学」

森和俊著「細胞の中の分子生物学

  BLUE BACKS 森和俊著「細胞の中の分子生物学」を読み終わった。基礎的な細胞の中で何が起こっているかを理解するには、とてもいい本でわかりやすい記述であった。今までにあった細切れの知識が、この本を読み進むにつれ、整理統合されていった様に思う。
 薬学部の同窓会での雑談中に紹介された。半年後くらいに探し出した。何の気も無く、ビットコインの仕組みを書いた本のついでに買った。ビットコインの方は、すぐに読み終わったが、ほんとの仕組みについては、あまりよくわからなかった。
 この本は、読み飛ばすことができなかった。順を追っていけば、物質から生命、それが遺伝子からゲノムという情報として伝達されるものとなり、大きく生命体という宇宙を形成して、核以外にミトコンドリアや小胞体など生命としての統一性を維持するために、物質の合成分解、修復と制御の機構が、実にうまく、微に入り細に入り、構築されているということを書いてくれていて、細胞の中で、物質が作られ、生命に必要なものに合成され、必要なところに輸送され、形成され、消費される過程を、知る事ができた。間違いがあれば修復し、必要以上になれば、ストップするという過程も予め組まれているのだ。著者は、分かりやすく説明するためか、これを人間社会の物流システムや、制御装置に例えるが、これは、逆である、生命体の中での各器官の連携などを知れば知るほど、人間社会はまねしていける。エネルギーをもっともっと抑える機構を作れるし、細胞レベルの機械、今もちらほら医療などで開発されたとニュースになるが、それも絵空事ではないと実感できた。
 著者と、その競争相手の研究者達の白熱の研究合戦の実況を交えて、語ってくれている。そこのところも、とても面白く、ノーベル賞を取る取らないの境目はここなどという話なども出てくるのだが、ノーベル賞受賞者の仕事が、如何に重要な発見だったか、ちゃんと認識させてくれている。説明上手の本である。
 更に発想を広げる。将来地球上に人間としての生命体が維持できなくなったとしても、遺伝子プログラムが宇宙の旅時間を考慮して作成され、送り出され、銀河系の別の環境で、到達後に花開く地球生物。この本を読んで、生物自体が、宇宙の様であり、歴史の様であることを、考えさせられると、そのようにつないでいく歴史の上書きもある様な気がしてくる。