風なりに
( 大分前のものであるが、まだ三〇代の、キャリアを諦め、悶々としていた時期の記録である。)
風なりに
十河 智
妻は主婦男言ひ切り遠花火
過去の今天秤揺れてifの夏
一笑に姓を捨てさす冷やし瓜
柿若葉溌剌痛きまで青し
活けらるるかほど挫けて柿若葉
一人子や軒端の笹へ願ひ事
アワダチ草一区画分黄に塗れる
ヲナモミが針の莚と埋め尽くす
つんつんと指し遊ぶものあめんばう
ゐのこづちまみれに犬の帰り来し
人流る生々しきは処暑の風
大らかに生き様見せて蔦紅葉
秋の日や妻たる日々の透きにけり
描かれて秋の富士あり句を添ふる
風なりに塩辛とんぼ生まれけり
高き天心ゆくまで鳥鳴きて
秋天にその名放ちて鳴門去る
秋晴や高き銀杏に深呼吸
ハツとして金木犀の香に浸る
りんだうや僻事つひつひ言ひ出でて
日曜はゆつくりと起き尚寒し
冬枯れや尖りて赤きアロエ咲く
雪うさぎ赤き瞳と泥の背と
日向ぼこ敷物引き出す犬の横
冬烏挨拶交はす間遠かな
電柱に三羽企む冬烏
風重し雪重々し冬茜
笹鳴きや吹く風に乗りひとしきり
エプロンに滲ませている春の水
夫送る空港までを遠霞